さて、Angel's Crest(5.10b / 13ピッチ)へ。
誰もいない静かな取り付き。
空は快晴だけど、北西面のためヒンヤリした空気が心地いい。
ところが、しばらくすると続々と後続が上がって取り付きは大混雑の様相。よろけながらガレ場を上がる危なっかしい初心者。飛び交う各国語。
この1週間、じっと晴天を待っていたのは僕たちだけじゃない。
「ここはおしゃべりを楽しみながら交流を深めるルートなんだよね〜」と皮肉っぽい冗談を言う声が聞こえる。
10P上がったところから限界トライが控えている我々にとっては、先を急がないとという気持ちにさせられる。天候が変わったりしたら目も当てられない。
上のビレイ点へ。
こちらも他のラインを迂回したパーティーが続々と集まってきてごった返す。
絶叫のようなコールが、谷間に響く。
集中をかき乱される環境と、見えない先のプレッシャーで、知らず知らずペースを乱されはじめていたのかもしれない。
ようやく人の姿が少なくなってきた4P目。
キレイなコーナーフィンガーを見逃したのか、遠くの凹角をあがる神。上部で右に大きなトラバースをして正規ラインに戻り、ピナクルの向こうに姿が消える。
僕も続いて凹角へ。
ちょっとした核心を越えようかというところで、トラバース方向に伸びたロープが強く引かれはじめる。真上から自分を釣ってくれるはずのもう一本のロープは緩んでいるので、バランスが取りづらい。2本を同時に引いているのだろう。
ぐいぐいと引かれた横方向のロープは遠くの岩角にひっかかり、ついには斜め下から引かれる形になる。困ったことに、常時強いテンションがかかっているせいで、ロープを岩角から外すことができない。
まずいな。どうしよう。
絶叫を繰り返す。ロープを断続的に引っ張ってみる。
しかし横のロープはいっそう急かすようにグイグイと引かれ続ける。
(あれ・・神はこの状況に気付いていない?)
ここではカムも取れないので、つま先と背中を突っ張って、なすすべもなく耐える。
うう、なんとか異変に気づいてくれないかな。
と、後から来たガイドが右の正規ラインを登ってきて、ひっかかったロープを外してくれた。
よかったあ〜。
ありがとう!ありがとう〜!
後続のために両方のロープを上でクリップしておくとか、横に伸ばした方のロープを緩めに引くとか、やりようはあったはず。大体、簡単なピッチなんだから、あんなガチガチに引くメリットはないよな。
登りながら、だんだん腹が立ってくる僕。
まあ、たしかに僕がいつも足を引っ張る立場だから、急かしたくなるのだろう。
気持ちはわかるけどさ。
少しはフォローの様子を気遣ってくれてもいいじゃないか。
ひとりでプンスカと苛立ちをつのらせ、ビレイ点に着くなり文句を並べる。
押し黙るゴッド。
だいたい、トラバースでむやみに引かれて、怖い目にあうのはこれがはじめてじゃない。
登りながら、だんだん腹が立ってくる僕。
まあ、たしかに僕がいつも足を引っ張る立場だから、急かしたくなるのだろう。
気持ちはわかるけどさ。
少しはフォローの様子を気遣ってくれてもいいじゃないか。
ひとりでプンスカと苛立ちをつのらせ、ビレイ点に着くなり文句を並べる。
押し黙るゴッド。
神は神で、ずっと狙っていたルートにようやく行けるチャンスとあって、気持ちに余裕がないのだろう。そもそも尾根の向こうにいて僕の様子は見えていないから、急に文句を言われたら面食らっても無理はない。
しばらくはこんな調子で、お互いにピリピリしたやりとりが繰り返される。
イカンイカン。上を目指したい気持ちは一緒なのに。
せめてクライミングだけは冷静にしないと目も当てられない!
林道歩きや簡単なフリーソロも交えた長い中間部を終えると、ついに後半の白眉、Acrophobe's Traverseが見えてくる。
高度感でお尻がムズムズするようなシャープなナイフリッジです。
太刀岡山左稜線を思い出すロケーション。
街を眼下に望みながら、大きなランナウトでリッジを登って行く。
さらに懸垂やフィックスをゴボウしながらのクライムダウンを挟んで、複雑な形状の岩面を落石に気をつけながらグイグイと登り切る。
天気は快晴で、とっても気持ちが良い。
こんな日がもっと早く来てくれたら、もっとマルチも楽しめたのにね〜。
上部のトラバース道でAngel's Crestとお別れ。
後続の小さな影を眺めながら、目的のHigh Plains Drifterを探しに行く。
後続の小さな影を眺めながら、目的のHigh Plains Drifterを探しに行く。
さて、ここからが難しい相談になった。
ここはかなり長大なルート。トポを参考に、黄キャメを4つほど持参したのだが、神が後続ガイドから仕入れた情報によると、実は青キャメが3つ・4つ必要らしい。
もちろんそんなに余計なカムはない。
「明日以降に装備を整えて出直して、上から懸垂して取り付いたほうがいいんじゃないですか?」と僕。
整備された登山道から回り込んだら、午前中のうちに上部に着けるだろう。2ピッチだけのクライミングなら装備も最小にできる。
カムが足りないかも知れない今となっては、このまま繋げる合理性を感じられないのだ。
一方、神はHigh Plains Drifterに行くことにこだわっていた。
残り日数もないから、今日じゃないと登れないという焦りがあったのかも知れない。さらには、このルートを「上部にある2ピッチのルート」としてではなく、「麓から頂上に抜ける一本のライン」として捉えたかったのかも知れない。
ま、まずは取り付きだけでも見よう。
濡れた凹角を、ボロい残置ロープを頼りながらこわごわ上がる。
おおおお!カッチョええ〜!!
見えているのは1ピッチ目、さらにもう一段スゴイのが続くようだ。
神は青カムじゃなくて黄色でもいけるんじゃないですか、としきりに言うが、行ってみるまで答えはない。
自分にとってはやみくもに突っ込むことができないグレードだから、最終的には神に任せます。僕は後日また来てもいいと思うけど、神がやりたいというなら頑張ってついていくよ!
神の考えで、ひとまずAngel's Crestへ再合流し、上へ抜けることになりました。
気持ち良いクラックをリード。
神は、ラストのチムニー(5.8)ではなく、バリエーションの5.10cを選択。
おおおお、厳しそうね・・。
トップアウト〜!
うはー!
全身を包む心地よい疲労感。
High Plains Drifterが見えるところまで移動して休憩。
懸垂点までのアプローチを探っておきましょう、とハイマツ帯を歩き回る僕。
神は、ルートの方向を何度も何度も覗き込んでいる。
不器用な沈黙。
「このルートはもう諦めましょう」
おもむろに切り出すゴッド。
「え?・・いや、僕は・・」
うまい言葉が出ない。
いや、僕は・・。
そうだ。今の二人にとってそれがいい。
天候や運に左右されるツアーで、目標全てがこなせなくってもいい。
ただ、ゴッドの情熱になんとか付き合ってあげたかったなあ・・。
顔を伏せたまま、風に身を委ねる。
陽気なアメリカ人パーティーがやってきて、長く静かな時間が破られる。
後続の奴らだ。何だか重い憑き物がおちたように、二人の空気が緩むのがわかる。
チーフの上に立つのはこれで最後だろう。
これでよかったのかなあ。
長く急なトレールをハイキング客に混じって降りていく。
(ちなみにこの二人、僕がうっかり忘れたメットを持って追いかけてきてくれました。ありがとう!)
さて、取り付きからは、どちらかが残置した車を歩いて取りに行かなければならない。
先ほどまでの距離感が消えた本気のジャンケン。
僕はどこかほっとした気分でチーフの裾野を歩いて、駐車場に向かった。
夜、食堂にいた知り合いのクライマーに、今日の様子を聞かれる。
「やっと最後にいい天気を当てて、マルチに登れたよ」と答える僕。
「雨の日も頑張っていたし、ずっと食事は最後だったもんな。お前らはそれに値するよ」
確かに、このコンディションの中では目一杯楽しんだかな〜。
ありがとうゴッド!
ブンスカしてるkozzzzyさんが想像できてちょっとほほえましい…。でも、雨降って地固まる的な感じで、なんかよかったじゃな~~い(^^)/
返信削除ワタシ、カナダの西側って雨が多いからそれほど好みじゃないんだけど、写真見てると行きたくなるわ!
珍しくカタカナのmepannaさん!そういやカナダにワーホリ行ってたんでしたっけ?ウラヤマシス〜。BC州は冬も穏やかそうだし、住んでみたいなーって思いました(ただし晴れの日限定・・)
返信削除そうそう。残り少ない日程になってから、待望の「快晴キター!」って状況になり、妙な気合いがぶつかってしまいましたが、1日の終わりにはいい感じになれました^^