2015年9月5日土曜日

北岳バットレス <心の忘れ物>



起床。はるか二股からは、いくつかのヘッドランプがこちらに登ってくる。

いつでも出発できるよう、取り付きで準備を整える。




待ち望んだ朝。





昨日とは比べ物にならない美しいクラックが朝日に浮かび上がる。
そうそう、このクラックに手を突っ込んだところで、敗退を決めたんだ。





あの時とは違う風景に、幸せをかみしめながら登る。
なにか憑き物が落ちるような、清々しい朝。








1年前はここに触れたくて、触れられないまま終わったんだよな。






ぐいぐいと高度を稼ぎ、八本歯のコルが眼下に入る。

あっという間に枯れ木のテラスがみえる。








振り返ると、ガイドのK野さんらしき人が早くも追いついてきた。
2・3ピッチ差だろうか。









そして・・トップアウト!






7Pと懸垂1回で3時間30分は、思ったより悪くない。
昨日はしょげていたけれど、少し自信を回復(笑)。










頂上を過ぎると、昨日強打した足首が激しく痛み出す。
アドレナリンが切れたのだろうか。

どうやら古傷の靭帯がまた傷んでしまったようだ。
自分の体が、1晩のあいだ傷をこらえていたことにびっくりする。

腫れはないからよいようなものの、クライミングシューズに足が入らなければ、あの場所からどうやって降りたのだろう。







拾ったダケカンバを使いながら、高度差1700m弱の下山。

一歩一歩に激痛が走るが、捻挫でヘリなんて恥ずかしくて呼べない。

右足を頼りながら、慎重に高度を下げる。




予定を大きく上回る、辛く苦しい6時間を耐え、なんとか自力下山。








あの前後、僕はあまりにも危険な状況に入っていた。
自分の実力に対して、無理をしすぎたかも知れない。

家族にも言えない失敗をしてしまった。
パートナーにもすごく迷惑をかけてしまったと思う。


それでも、たくさんの収穫がありました。
アルパインエリア特有の時間配分、濡れや泥、敗退の難しさ、残置ハーケンのリスク、ビバークの経験。僕にとっては、学ぶことだらけだったように思う。


思いがけずshuさんに「思い出がつまった山行になりました!」と言っていただいたとき、僕は嬉しくて、何度もうなづいていました。

5 件のコメント:

  1. おめでとうございます‼とてもとても良い山行だっんですね。よかった~。
    いろいろな意味でそれぞれバットレスへの思いを果たせて本当によかったです。自分のことではないのにとても嬉しいです。

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  2. おめでとーーん&お疲れサマンサー。
    でも、足が心配だね。その後どう?

    ワタシみたいに、捻挫だと思って気合いで下山したものの、
    結局折れてたってけっこうある話らしいので、油断大敵よ~~。

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  3. > cherroさん、ありがとうございます!自分が大失敗をしておいてなんですが、強いパートナーに恵まれ、本当に充実した山でした〜。四尾根上部はいいルートですね^^

    >メパンナさん、ありがとーーん!下山後、多少は腫れたのですが、レントゲンで見るかぎり骨折はなさそうでした。全治1週間くらい。酒禁止でした(ショボーン)
    折れた状態で下山とか、よくやりますね・・。辛さを実感しました。

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  4. お疲れ様です。
    良い山行に水を差すようで申し訳ないんですが、かなり重要な教訓が得られると思いますので。

    長いマルチ(特に本チャン)だと、スピードや突破を意識するあまり、ショートルートよりも安全基準が下がってしまいやすい傾向にあります。
    が、本来は怪我しただけでも、レスキューor死亡です。
    つまり、ショートルートより僅かばかり安全な判断をするくらいが、理想です。

    今回の場合は、ビバーク適地に行きたい気持ち、急ぎたい気持ち、は自覚の通り。
    他にも、暗いこと、パートナーが寒そうで申し訳ないこと、などもリスク感覚をマヒさせた要因になったんじゃないかと思います。

    リスク判断というのは、可能な限り客観的であるべきなので、主観に惑わされやすいパターンを知るのも大事だと思います。
    (今回の場合は、恐怖心が麻痺してくる要素が多すぎたのではないかと。)

    あくまで、僕ならですが。
    「ぶっちゃけ面白かったけれど、山行評価としてはダメだったな。こんなん繰り返してたら、死ぬよな。」
    と自己反省するタイプのクライミングです。

    もしかしたら、少しステップアップ歩幅が大きすぎたのかもしれませんね。
    ただ、このくらいのステップアップの方が、ドキドキ感が味わえるのは自分の成長過程に照らしても否定できませんが(笑)。

    これから自己分析する予定だったなら、失礼しました。

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  5. 塾長、ありがとうございます。
    総括に書こうと思っていたことを全部書いていただいてしまいました。ご指摘の通り、楽しかったけど、二度とやってはいけないタイプの山行だと思います。具体的に「何を繰り返すべきでないのか」ということは、もうすこし考えてみたいですが。

    「ぶっちゃけ面白かったけれど、山行評価としてはダメだったな。こんなん繰り返してたら、死ぬよな。」という部分に関しては、全く同じことを話していました。(問題はそれでも「面白かった」ということですが・・苦笑)

    「リスク判断が主観的になる」ということは、僕がもやもやと感じていたある種の危険なパターンを、ずばり言い当てられた気がしています。ご指摘、アドバイス、感謝です!

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