2014年9月1日月曜日

瑞牆山 十一面岩 <調和の幻想>

日曜日。朝の廻り目平は見事な晴れ間が。ひょっとして粘り勝ち?

これなら瑞牆山を挟んで反対側にあるエリアも大丈夫でしょうと、浮ついた気分で行って見たら、瑞牆山は重~い雲の中。雨は未明まで残っていたらしい。もしかして廻り目平の晴天は、こっちで雲をブロックしていたからなの?

こんな朝なのに車は15台以上あり、ビッグロック店長のMさんとか、雑誌によく出ている某ガイドとか・・どこかの岩場で見た顔ばかり。我らが塾生仲間、YZ部長もいらっしゃいました。まあ、とりあえず来ちゃったので、準備をして出発。

末端壁はデカい!カッコいい!霧が立ちこめ湿り気が半端ないが、取り付きには既に4・5名の人たちがいる。中には有名女性クラッカーHさんの姿も。



はたして調和の幻想は・・ビショビショ。1P目~2P目でマントルを返すあたりは滝状態。もちろん無人(笑)。

山賊ルートという代替案もあったが、やっぱりあこがれの「調和」を見てしまうと目が離せなくなる。ま、そのうち天気もよくなりますよー、などと無責任なことを言いながら、のんびり準備。

12時前に晴れ間がやってきたので思い切って出発!




へ、まだ濡れている?・・それが何か?
これまで、濡れファザー、濡れクレジャム、濡れテレポーテーションをやってきた我々に取ってみれば、「濡れ」なんぞは問題にならないのであります(キリッ!)

とか思っていたけど、案の定というか、途中はまるで急角度の滑滝登りでした。一足一足に神経が張りつめる。カムさえも滑って抜けそうで恐ろしい。

精神的な核心は、KSさんの上部ピッチ。



カムを取ってから、大きくトラバースしてスラブ壁へ行くのだが、ガバは当然、カチすらない。もちろん墜ちればテラスにグラウンドする大ランナウト。目の前にリングボルトがあるが、もちろん無視。



ちょうど視界を遮っていた霧が晴れ、偶然にも小ヤスリ方面から下山してきたYZ部長の声が届く。KSさんのトライを見守ってくれているようだ。




(下山中のYZ部長パーティー)

最初のポケットまで、結晶の粒を踏んでそろそろとあがる。ビレイヤーの僕は、万が一に備えた体勢を取る。もし墜ちたら、その瞬間にロープをどれだけ引けるだろうか。おそらく1mも引けたらいいところだろう。運が良いと木に激突して引っかかる、悪いとグラウンド。つばを飲む。

そろそろと伸ばした手がポケットを取る。しかしその上はもっと悪い。もはやビレイヤーはいなくていいくらいのランナウト。先ほどのポケットにはみ出し気味の紫を決めてはいるが、到底止めてくれるとは思えない。

スラブをトラバースし、クラックがあるラインに戻る。あり得ないくらい薄いカチのガストンで体を支えながら、思い切って体を倒すが、次の足がない。一度体がめくれたら持ち直せないだろう。

一旦体を戻して荒い息をととのえるKSさん。神経をヤスリで研がれるようなじりじりとした間が過ぎる。

ムーブを組み立てなおし、極小スタンスで足を踏み替える。そこから思い切って左へ体を乗り出し、クラックへ一歩踏み出す。ガンバ!
もう戻れない。こちらも息を詰める。

左の凹角に体が移り、上部ハング下にカムが決まる。深い息。右手に握るロープが急に心強く思えてくる。ここからも悪いムーブが続いたが、苦労しながら突破。さすがに初段クライマーでした。


「最後のトラバースを抜けたときにはおもわず拍手してしまいました。」見守ってくれていたYZさんからも、嬉しい話を後から伺いました。もともと残置を使うスタイルでしたが、あえてボルトを無視して自分達の力だけで限界に挑むという僕たちの姿勢に、感動してくれたようでした。




(快適な最終ピッチ)

そんなこんなで5時半をまわってトップアウト。写真を撮り始めたら、立ちこめていた濃密な霧が奇跡のようにさーっと晴れ、眼前に奇峰群を見せてくれました。ひゃあ~!!やりましたね~!よかったあ!!やった~!




夕日に照らされる雲海。
スーパーレインに初めて挑んだ時、終了点から西日を眺めたことを思いだす。

あの時はオンサイトを逃してしまったが、今回は胸を張って帰れる。濡れた状態での調和トライ、そして残置無視オンサイトは誇っていいだろう。ずっと憧れだったミズガキクライマーの仲間入りを許されたような気がする。

さて、ここでヘッデンがないことを思いだす。12時から5ピッチを限界トライしたら、何時になると思っていたんだ自分は・・。

再び視界をくもらせる霧の中、連続懸垂を開始。4P目終了点から2P目終了点付近の立ち木まで、時間もないので50m一気に降りる。ところがロープがスラブに引っかかって抜けない。仕方がないので、KSさんには25mずつ小分けに懸垂し、ロープをちょこちょこ引き抜いてもらうように伝える。声が遠くてなかなか意思疎通ができないもどかしさ、暗闇が迫る焦りがあいまって、ついつい声がきつくなってしまう。元はと言えば僕の判断ミスなのに申し訳ない・・。

最終ピッチ懸垂。すでに上部は厚い雲で覆われていて、空は真っ黒。星明かりすら望めない。残りわずかな残照を頼りに、まずはKSさんに降りてもらう。僕は夜目が効く方だし、携帯電話の明かりがあるので懸垂のセットくらいはどうにでもなる。
下山路を少し間違えそうになってウロウロしましたが、慎重にルーファイして駐車場へ8時過ぎに到着。




温泉に入って、ようやく緊張を解きました。

さて、ようやくフリーの一つの目標を達成した。
まだまだ失敗だらけで「脱初級者」までには距離がありそうだけれど、10aで大げさかも知れないけれど、ここまで来られたことは素直に嬉しく思います。運動センスなし・クライミング経験なしのオッサンが、ついに山岳会や同好会にも入らず、こんなに遠くまでたどり着けるとは思いませんでした。

商売を度外視して(?)山の技術と考え方をアツく指導して下さる塾長に出会わなかったら、今の成果はあり得なかったでしょう。自立したクライマーに少しでも近づくことができたのは、ただただ塾長のお陰です。
そしてここまで来られたのは、小川山、城ヶ崎、日吉やアキパン、夏山や冬山で、いつも一緒に刺激しあって、アドバイスしあえる楽しい仲間がいるお陰です。完全な独力だったなら、自分は到底ここまで来られませんでした。
特に僕の無謀な誘いにも気持ちよく乗って下さり、いつも助けてくれるKSさんには感謝したいと思います。KSさんの技術、精神力なくしては、核心を突破できなかったと思います。パートナーに恵まれたのが何よりの幸運ですね!

というわけで、こんな長文駄文を読んでくれたアナタに言いたいのは、濡れた岩場もたまにはいいよっていうことです。
ひとつ雨の小川山なんてどうですか奥さん?


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※以下は記録

アプローチは少し迷って40~50分くらい。

 1P 12:00-13:00 (1:00)
 2P 13:00-14:05 (1:05) 
 3P 14:05-15:10 (1:05)
 4P 15:10-16:20 (1:10)
 5P 16:20-17:35 (1:15)
 休憩 17:35-17:45
 懸垂 17:45 - 19:00頃 (1:15)合計5P
 (正規終了点まで10m+50m+25m×3回)

下山開始 19:45
下山 20:15頃

<ルート内容>

◯ 1P目 5.10a OS (KS)
ツラ楽しそうなワイド。右のフレークを使うのだが、バランスが微妙で頭をひねる。抜け口も悪くて泣かせてくれる。ホント10aなの?これがミズガキグレード?
右のスラブが乾いていると違うはずと思いたい。

◯ 2P目 5.9 OS (kozzzzy)
下部はアメリカンフィストくらいのクラックを頼りにボルダーチックにハングから体を起こす。そこから、濡れたフィンガークラックを頼りに、ビショビショのスラブにスメアを張ってマントルを返す。カームフライデイ核心によく似ている(でもあれって10bだったよな・・)
そこから外傾したスラブをそろそろと上がる。ビショビショのスメアがすべって何度かカチでこらえたが、たぶん乾いていると5.9なんでしょう。スラブを上がり切ると、左手にしっかりした木がある外傾テラス。トポには一段上の木の方がよいと書いてあったが(実際3P目のビレイを考えると上がった方がよいように思った)、上の木は見事に枯れていた。なんとかクラックを使ってビレイ点構築。下の木で切ってもいいのかもしれない。
ま、一番濡れたところをやったので、無理させた責任を取った形(?)

◯ 3P目 5.10a OS (kozzzzy)
5P目をやらせてもらうことになっていたので、ここで変則オーダー。
この辺から日当りがよく岩も乾いている。数手のトラバース核心。リングボルトがとても目障りで、ルーファイを間違えそうになる。実際はボルトより随分下をトラバースした方が自然だった。ややかぶっているので、考えながらいくとストレニュアス。トラバースしてからさらに右裏側の岩でマントルを返した方が易しい印象。
これはグレード通りか。

◯ 4P目 5.9 OS (KS)
ウワサの精神的核心。まずは木とスラブの間に体をつっぱりワイドムーブ、高い場所からバッタンとスラブに飛びつくが、飛びついた後の手があまりない。僕はリーチのせいか、スタティックに行けたが、それでも木にきめたステミングが滑りそうで怖かった。
左のコーナークラックにカムを決めてから、恐怖の大ランナウト。ダイクを右トラバースして、スラブをそろそろと上がっていく。途中でポケットに紫カムを決めたが、後で自然に抜けてしまった。再び微妙なバランスムーブで左へ。コーナークラックまで戻り、ようやくプロテクションが取れる。墜ちると余裕でグラウンド。
精神的に最も痺れるセクションでした。ここからもあまいワイドフィストを頼りにハング越えする2・3手が厳しい。これが5.9なんて絶対にウソでしょ~。
ちなみに絶賛リーチ有利です。KSさんゴメンなさい。

◯ 5P目 5.8 OS (kozzzzy)
恐怖の15mレイバックを強いられるらしい大フレーク、そして核心とウワサされるワイド。5mから15mのランナウトがあるとか。

ところが行って見ると6番カムが全然決まる。しかも寝ているから余裕。カムをずらし上げるので、時々レイバックからフレークの中に入るムーブが必要にはなるけれど、まめにずらし上げているうちにフレークの最後3~4mほどまで来てしまった。もうグラウンドはないので、カムとはここまででおさらばし、フレークの終点へ。結局大したランナウトはなく終わった。
フレークの最後でハンドサイズのカムをきめ、しばらく進むとワイド。ここに4・5番を温存していたが、ムーブの邪魔になるので、どちらか一つあればいいくらいか。
ワイドの奥は濡れていて怖かった・・。日吉で練習したことを思いだし、ムーブをあれこれ組み替えたりしながらしゃにむに通過。ちびっこ有利みたい。
そのまま残置終了点を通り過ぎ、上部テラスへ。3mほど奥の木に、50m一杯のロープを引きながらビレイ点をつくって終了。木が奥にしかないので、長いスリングや捨て縄などで延長できるとよいです。

◯ 懸垂
最初は残置終了点まで10m。5P目取り付きまでも50mで降りられるはずだが、テラスのエッジでスタックしそうな予感しかしないので自重。
そこから50m一気に降りて5P目取り付きへ。
ここで僕が2P終了点(下の木)まで50m近く降りるが、ほとんどロープが引けないので、KSさんに25mずつ降りてもらってちょこちょこロープダウン。ここで再びロープスタックしそうになったがギリギリ抜けてよかった(暗闇をリードしたくない・・)
最後の1ピッチもロープスタックしかかったが、取り付きから10mほど後方に下がって引いて、ことなきを得る。取り付きと同じ場所に下降しようと思っていたが、トポ通り、左側のフェイスに出てしまった方がよかったのかも。
初見かつ暗闇の下降で不安だったので、一度通った場所の方が安全かという判断でした。そもそも遅くまでやるならヘッデン持って行けという話だな・・

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(ヤマレコのログより転載・加筆しました)
http://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-503209.html

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