はじめてのカムすっぽ抜け!
7mくらい墜ちました。
同じことがテラスのちょい上であったらグラウンドフォール。これは起こしてはならない種類の失敗だと思います。
大きな反省を込めて、ここに恥をさらします。
(・・・というかこんな長いポスト、読む人いるのかな)
<経緯>
・湯川で「黄昏の舞姫」をリード中、トラバースでキャメロット#0.75(緑)を決めた。(テンション中に、入念にセットしていた)
(ルート概念図)
・トラバース後、レッジ状の場所にマントルを返し、ワイドの中に入ってレスト。この時点で1〜1.5mのランナウト。
・核心となる、ワイドすぐ上のフィンガーに背伸びをしてマイクロカムをきめる。メトリウス#2(黄)は入らないサイズだったが、#1(青)だとやや緩い感じもしたので、かなり深くに差し込んだ。カムの歯の角度は90度より若干広かったが、開いてはなかった。
・クラックはパラレルに見えた。カムは手でバン、バンとスリングを引くように軽いテスティングをした程度では、動く様子はなかった。不安定な体勢かつランナウトしていたので、思いっきり引くことはしていなかった。
・メトリウス#1と直前のC#0.75の距離は2.5〜3mくらい。バックアップはなく、メトリウス#1が抜けたとしたら2.5〜3mくらい斜め上にランナウト状態であった。
・核心ムーヴ中に力尽きてテンションコール。腰をマイクロカムいっぱいに近づけ、ロープのたるみをとってもらう。
・手を離して、少し振られ気味ではあるが、スタティックにカムに加重したところ、ほぼ無抵抗でカムがすっぽ抜け。そのまま後頭部を下に7mほど墜落。先ほどのC#0.75が持ちこたえて止まる。
・後から検証してみたところ、カムの歯や、クラックに、強い引っかき傷のようなものはついていなかった。(ほぼ無抵抗で抜けたものと思われる)ただ、カムの歯の溝に、泥がこってりついていた。
(ルート主要部分拡大図)
<反省と対策>
7mも墜ちるのは当然、想定外でした。直前のC#0.75がなければさらに1m以上は墜ちていたと思います。メトリウス青の効きが甘めだという認識はありましたが、そっとテンションくらいでは抜けないと考えていたため、カムが抜けた場合の墜落距離については意識せず、バックアップを取ることもしませんでした。
起きない前提で動いていたことが、現実に起こったということは、僕のリスク認識が甘いということになります。
具体的に反省は2つあって・・
1)抜けたことそのものについての反省
2)抜けた場合の対策を取っていなかったことの反省
そもそもなぜ抜けるようなセットをしたのか、抜けないようにするためにできることがなかったのか?というのが1点目。
とはいえ、カムが抜けることはありえるから、その場合のバックアップをなぜ取らなかったのか?なぜ抜けるはずがないと思ったのか?ということが2点目です。
1)抜けた原因と対策
・クラックの形状
正面から見ましたが、パラレルだと思います。奥開きについてもほとんどしていなかったように思います。
・クラック壁の状態
湯川にありがちですが、クラックの両側が泥っぽい状態だったのが気になりました。泥の影響で滑りやすくなっていた、もしくはクラックの内壁そのものが硬い泥でできていたため削れてしまった、ということが考えられます。
・カムサイズ
M#2(黄)が入らないサイズだったので、M#1(青)を決めていた。大フォール後に、C#0.3を入れたらよく効き、スタティックな加重には耐えました。
つまり、クラックサイズは、メトリウスの黄色よりは小さいが、メトリウス青では大きすぎ、C#0.3だとちょうど良いくらい、ということになります。
メーカーによる規格対応サイズと比較すると・・
M#1 12.5mm - 18.0mm 入った
C#0.3 13.8mm - 23.4mm 入った
M#2 15.5mm - 22.5mm 入らず
理屈の上では、クラックのサイズは、13.8mm以上15.5mm未満という感じでしょうか。
問題は、このサイズのクラックはM#1の対応レンジ内のはずなのに、それが抜けたということです。つまり(少なくとも僕の持っているカムに関しては)
M#2が入らないサイズだからといって、M#1が必ず効くわけではないということになるかと思います。
補足にざっくりした検証結果を書いていますが、おそらくマイクロカムの対応レンジについて、広い側については効かない(効きにくい)ことがあるのではないかと予想しています。
つまり対策としては、「カムは閉じ気味に、タイトに決めましょう」ということにつきます。またM#1と#2の間のサイズとして、C#0.3を持っていた方が良さそうです。
さらに泥や草、塩や濡れなど、摩擦係数を落とすファクターがある場合は、パラレルでもかなり注意した方が良いということも言えます。
実際には、このポイントにC#0.3を、バックアップとして下部の泥が付いていないクラックにM#1をかませて、トライを続行しました。
2)抜けた場合の対策を取っていなかったことの反省
上記からわかることの一つは、完璧にセットしたつもりでも、カムが効かないことがあるということです。とくに厳しいと自分でわかっている核心に突入するときに、バックアップを取ろうだとか、外れたらどうなるだろうと考えていなかったことは、リスク管理の甘さで、ここが最大の反省点だと思っています。
なぜそうなったのか?
・クランクでロープを屈曲させたくないとか、厳しいフィンガーでできるだけ手を埋めたくない、といったある種の攻略技術を、安全管理技術より優先してしまっていた。
・そもそも思考が雑になり、ここから核心=カムをしっかり取らなければ、という危機感が薄いまま核心に突入していた。
・多少の甘効きであっても、そっとテンションすれば抜けないと思っていた。
・バックアップを意識していなかった。今の一本が効くかどうかだけではなく、その前の一本がどこにあって、どれだけ効いているのかについて考えていなかった。(たまたま効いてて本当に良かった・・)
対策としては、当たり前のことですが、
・厳しいセクションの前にカムについて考える。(効きはどうか、バックアップはどうなっているのか)基本中の基本ですが、いつの間にか甘くなっていました。
・「そっとテンション」は万能ではない。効きは怪しいけど、そっとテンションかければいいや、という考え方をせず、効きがいいところを探して頑張る。
・攻略技術と安全管理技術の優先順位については、もちろん安全が先だが、実際上はこのせめぎ合いは常にあるし(貴重なハンドジャムを埋めて全く進めなくなるとか)、カムを取りすぎて後でこまることもある。少なくとも「ここでは攻略を優先させているため、安全を一部犠牲にしている」ということを明確に意識しておくことが、様々な対策を取ることにつながると思いました。
というわけで、久しぶりに
塾長に手解きいただいた時の原点を思い出していた連休でした。
これからはさらに気を引き締めて、安全で楽しいクラックライフを送りたいと思います。
さて、頑張るよー!
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(カム抜け原因のざっくりとした考察)
・泥の影響で滑ったと思われる。M#1カムの歯の外側(90度よりやや広い場所)に、強い摩擦によると思われる泥がこびりついていました。
ここで疑問なのは、なぜM#1が効かないのに、C#0.3だと効くのか?ということです。
・開き気味に入ったM#1と、閉じ気味に入ったC#0.3について、歯の角度による支持力の差はない。(SLCDでは、歯の角度によらず支持力が一定になる。理論上は。)
・歯の金属の材質による「咬みやすさ」の違いがあるらしいが、これが関係するのかは正直わかりません。相手は泥だし・・。
・SLCDには「カムアングル」という定数があって、このアングルが大きいほど、対応レンジが広くなる一方で、摩擦力への耐性が低くなる(フレアや泥で外れやすい)。
メトリウスはキャメロットよりもアングルが低く作られているため、M#1が外れてC#0.3が維持される説明にはならない。
可能性が残るのは以下の3つくらいでしょうか。
a) 泥によって摩擦力が低い部分と、岩が出ていて摩擦力がある部分が混在していた可能性。つまり、M#1がちょうど最も滑りやすい場所に決まっていたのかもしれない。C#0.3の方が横幅が広いため、摩擦力にムラがある表面でも、より安定して効くと思われる。
→この場合は、泥など滑りやすい場所ではなるべくキャメロットを使いましょう、という話になりますが、キャメロットでも効く保証はなく・・実際は対策不可能です。
b) 開き気味のマイクロカムは効きが甘い可能性。これは体験的にそう思うだけで理論的な根拠はあまりわからないのだけど・・・。
開き気味だと①ウォーキングが起きやすい、②歯の対数らせんが崩れている場合(摩耗や、施工上の誤差など)、角度が広い方が影響を受けやすい(角度のマージンが少ない)、③ウォーキングから見られるように、振動やショックで一時的に歯が狭まるため、スタティックに効いた状態になる前に「瞬間移動」が起こることがある(?)
そういえば、城ヶ崎ファザーの上部パラレルで、キャメ4番だと止まるが3番は(同じく効いているように見える角度なのに)スタティックな荷重でも
カムのすっぽ抜けが起きた、という目撃談がよくあります。
→①〜③のいずれにせよ、開き気味だと効かないことがあるため、実際に効くレンジは規格対応レンジより狭い(=つまり「メトリウスのどの番号でも効かないサイズ」というのが存在する)ということになります。
c) クラック内壁を泥がコーティングしていたせいで、実際のクラックサイズより狭く見えていた可能性。つまり実際のクラックは18mmを超えるサイズだったが、硬い泥のコーティングにより15.5mm以下になっていた。テンションをかけた結果、M#1が泥を押しのけて全開になり、抜けた。
→なくはないが、後で検証した結果、クラックに引っかき傷がないことや、カムの歯の外側に泥がついていた部分があったことから、カムが全開で、内側の泥を2.5mm分くらい掻き出しながら飛び出した、というのは考えにくいです。
おそらくb-③ではないかと想像しています。泥で摩擦が弱いかぶり気味の核心で、レイバック状態からやや振られ気味に落ちたことから考えると、
ヨシーダ大先生が書いておられる危険パターンによく似ています。この通りなら、カムの片側の歯が潜り込んで、片側が開いて抜けたことになります。言われてみれば、歯の片側ばかりに顕著に泥が付いていたように記憶しています(拭き取ってしまったので確証はないのですが)。
この場合、カムが開いている方が「潜り込み」を起こしやすいため、開き気味に決めたM#1だけが抜けて、C#0.3が耐えたことの説明としては納得がいきます。これが最も近い説明ではないかと思います。